駐車場の猫
誰でも子供の頃に、一度くらいは心当たりが有るのでは無いかと思いますが。
野良犬や捨て猫を連れて帰り、「飼えないから捨ててきなさい!」と言われ、しぶしぶ空き地に置き去りしたといった様な事が。
たとえ飼えないにしても、せめてエサをあげるくらいは良いじゃないか。子供の頃はそう思っていましたが。
色々と経験を積んだ今になって思うのは、やはり飼えない(責任を持てない)動物にエサを与えるのは間違った事だ、という事です。
街の野良犬・野良猫とはいえ、あくまで相手は野生の動物であり、安易にエサを与えてしまうと自力でサバイバルする能力が下がってしまう。そしたまた、人間に対する警戒心が薄れ、思わぬ事故に遭う事も。
ひと月くらい前から、夜になると必ずやって来る子猫がいまして。
こちらを警戒してあまり近くには寄って来ませんが、何か食べ物を期待しながら待っている様子です。
すまんが食べ物はやらんぞ、隣はラーメン屋さんで野良猫がウロウロしていると衛生上具合が悪い。ウチにしても、お客さんのバイクのシートに爪をたてられてはたまらないからね。
気の毒だとは思うが、無視していればそのうち他所へ行くだろう。
ところがある雨の夜、裏口のドアを開けると、しっとり濡れた子猫が座り込んでいた。いつもは近づけばサッサと逃げだすのに、その日はあまりにも腹が減っていたのか弱々しい泣き声をあげている。
しかたねぇなあ、主義を曲げるには抵抗を感じるが、一回だけ、今回だけ、本当に今回だけだぞ!と念を押してから、冷蔵庫から取り出したウインナーを2本だけ与えました。
一時的にオマエさんの腹は満たされるかも知れんが、結局はお互いのタメにならないんだ、そこんとこ分かるか?ホントにこれっきりだぞ。
結論から言って、やはり食べ物を与えるべきでは無かったのだろう。その日から毎晩の様に子猫はやってくる様になってしまった。充分に予測できた結果ではあるけれど。
裏口を開けて表へ出ると足元に寄って来たり、ドアのすぐそばにジっと身を潜めていたり。
やいこら、もう二度と食べ物はやらんぞ。どこかでネズミを捕まえるとか、ゴミを漁るなりして自立したまえ。
何日かすると、説得が通じたのか、あるいは他へエサを探しに行く様になったのか、姿を見かけなくなった。
ところが昨夜の事。コンビニへ出かけようと裏口のドアから踏み出したその一歩目で、グニャリと柔らかいモノを踏んだ嫌な感触が。
しまった!と思い、体ひねりながら慌てて足を上げたが、もう遅かった。
「フシャーッ!!!」と奇妙な唸り声を上げて飛ぶように走り出し、途中、恨めしそうに立ち止まって振り返った子猫は、その時はじめて後ろ足の異変に気が付いたのか、ピョコピョコとびっこを引きだした。
踏みつけたのは右の後ろ足だったみたいだな。踏みつけた勢いからして恐らく折れているだろう。この子猫が2度と近づいて来る事は無いだろうし、足の骨折が原因で野垂れ死にする可能性も高い。
猫も自分も、しばらく動かずにお互いを見ていた。
いやいや、まさかこんな事になるとはね。わざとでは無かったが、やはりそもそもの最初からエサを与えたのがマズかった。変な期待を持たせなければ、子猫がドアの外でジッと待ってるなんて事は無かっただろう。
「腹を空かせた子猫に食べ物を」という、動機は「善」であったとしても、結果として不幸な結末となる事は往々にしてあるものだ。
ついこないだ「正しい事が通らない事もあるんだ。」と芝居がかった捨てゼリフをはいた大臣が居たね、そう言えば。
オマエさんの怪我は恐らく、野良猫として生きていくには致命的なものになるだろう。もしどこかでオマエさんが動けなくなって息を引き取る時に、俺の事をどう思い出すのだろうか。ウインナーをくれた人間としてなのか、自分を蹴っ飛ばした人間なのか。
どちらでも、好きに考えてもらって構わない。オマエさんには野良猫としての行き方があり、こちらには人間としての事情が有る。現実的に言って、いちいち可愛そうな子猫を引き取って育てる事は不可能なんだ。
足を引きずりながら子猫は闇に消えて行った。そもそも最初から係わりあいにならない方がお互いの為には良かった、そういう種類の出会いって有るもんです。
相手が猫であれ、人間であれ。
と、少し感傷的に書いたこの文章を発表するか、このまま削除してしまうか。それは一晩考えてから決めるとしよう。
今日はとりあえず寝てしまおうと裏口のドアを開けると。
・・・・普通に歩いてるね。
脅かしやがって、ちくしょう。


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